「経理は引く手あまた」は本当?理由と市場価値が高い人の3つの特徴をプロが解説
「最近、『経理は引く手あまた』という言葉をよく耳にするけれど、本当なのだろうか…」
「毎日同じ業務の繰り返し。このままで自分のキャリアは大丈夫かな…」
もしあなたが、日々の業務に追われながらも、ふとご自身の将来についてそんな風に考えたことがあるなら、この記事はきっとあなたのためのものです。
巷でささやかれる「経理の売り手市場」という言葉。
それを耳にするたびに、「それはIPO経験があるような、一部の特別な人の話でしょ?」と、どこか他人事のように感じていませんか?
しかし、そのチャンスの波は、あなたが思っているよりも、ずっと近くまで来ているのかもしれません。
この記事では、長年多くの経理担当者のキャリアをご支援してきたプロの視点から、
- なぜ今、経理がこれほどまでに求められているのかという「市場のリアルな理由」
- 企業から「ぜひ会いたい」と思われる人材に共通する「評価ポイント」
- 「自分には強みがない…」と感じていても大丈夫。明日から始められる「具体的なキャリア戦略」
を、具体的な事例を交えながら、一つひとつ丁寧にお伝えしていきます。
この記事を読み終える頃には、あなたのキャリアに対する漠然とした不安は、確かな「自信」と「次の一歩を踏み出すための具体的な道筋」に変わっているはずです。
さあ、一緒にあなたの可能性を最大限に引き出すためのヒントを見つけにいきましょう。
なぜ今、「経理は引く手あまた」と言われるの?その3つの理由
「最近、経理は引く手あまたって聞くけど、本当なのかな?」
「自分の経験でも、良い条件で転職できる可能性があるんだろうか?」
もしあなたが経理としてのキャリアを歩む中で、このような期待や疑問を感じているなら、その感覚は決して間違いではありません。実際に、現在の転職市場では経理人材の価値が非常に高まっています。
では、なぜ今、経理人材がこれほどまでに求められているのでしょうか。その背景には、大きく分けて3つの理由があります。この理由を知ることで、あなたが今後どのようなスキルを身につけ、キャリアを築いていくべきかのヒントが見えてくるはずです。
理由1:どんな会社にも欠かせない「守りの要」だから
まず最も基本的な理由として、経理は会社の規模や業種を問わず、事業を続ける上で絶対に欠かせない存在であることが挙げられます。
会社のお金の流れを正確に記録し、管理する経理部門は、人間で言えば血液を循環させる心臓のようなもの。日々の入出金管理、給与計算、請求書の処理といった業務が止まってしまえば、会社の信用は失われ、事業活動そのものが成り立たなくなってしまいます。
さらに、経営者が会社の経営状態を正しく把握し、次の戦略を立てるための羅針盤となる「決算書」を作成するのも経理の重要な役割です。このように、会社の根幹を支える「守りの要」としての普遍的な役割があるからこそ、経理職の需要はいつの時代も安定しているのです。
理由2:採用競争が激化し、経理の人材不足が進んでいるから
安定した需要がある一方で、経理人材の「供給」が追いついていないという現状も、市場価値を高めている大きな要因です。
日本全体で少子高齢化が進み、労働人口が減少していることはご存知の通りですが、その影響は専門職である経理の世界にも及んでいます。長年の経験を積んだベテラン層が次々と定年退職を迎える中、その穴を埋める若手や中堅の経験者が不足しているのです。
特に、採用に多くのコストをかけられない中小企業や、これから組織を拡大していきたい成長企業にとっては、即戦力となる経理経験者の採用は非常に難しい課題となっています。私の経験上でも、一人の優秀な経理経験者に対して、複数の企業が採用オファーを出すというケースは決して珍しくありません。企業側は、まさに「引く手あまた」の状況の中で、どうすれば自社を選んでもらえるかと頭を悩ませているのです。
理由3:IPOやDX化など、経理に求められる役割が高度になっているから
そして3つ目の理由が、現代の経理に求められる役割が、もはや単なる「記録係」ではなくなってきている点です。テクノロジーの進化やビジネス環境の変化に伴い、経理にはより高度で専門的なスキルが期待されるようになりました。
| 比較項目 | 従来の経理のイメージ |
|---|---|
| 主な業務 | 伝票処理、記帳、定型的な決算業務 |
| 求められるスキル | 簿記の知識、正確性、忍耐力 |
| 役割 | 過去の数字を正確に記録・報告する |
| 比較項目 | 現代の「引く手あまたな経理」 |
|---|---|
| 主な業務 | 業務プロセスの改善、会計システムの導入・運用、経営分析資料の作成、IPO準備 |
| 求められるスキル | ITリテラシー、プロジェクト管理能力、分析力、提案力 |
| 役割 | 数字を基に未来の経営に貢献するパートナー |
例えば、IPO(株式上場)を目指す企業では、内部統制の構築や監査法人との折衝といった特殊な知識を持つ経理が不可欠です。また、DX(デジタルトランスフォーメーション)の流れの中で、会計ソフトやRPAツールを導入して業務プロセス全体を効率化できる人材の需要も急増しています。
このように、ただルーティン業務をこなすだけでなく、経営課題の解決に貢献できる経理は希少価値が非常に高く、企業から強く求められる存在となっているのです。
経理に求められる能力とは?市場価値を高める専門スキルとキャリアパス
【成功事例に学ぶ】引く手あまたな経理とは?評価される3つのポイント
前のセクションでは、経理を取り巻く市場が「引く手あまた」になっている理由を見てきました。では、その中でも特に企業から「ぜひ採用したい」と熱い視線が送られるのは、一体どのような経験やスキルを持った人材なのでしょうか。
ここからは、私が実際に多くの転職をご支援してきた経験から見えてきた、市場価値の高い「引く手あまたな経理」に共通する3つのポイントを、具体的な成功事例を交えながらご紹介します。ご自身のキャリアと照らし合わせながら、読み進めてみてください。
ポイント1:IPO準備やマネジメントなど「付加価値の高い経験」
まず、他の経理担当者と大きな差をつけることができるのが、通常の経理業務に加えた「付加価値の高い経験」です。その代表例が、IPO(株式上場)準備やマネジメントの経験です。
これらの経験を持つ人材は、転職市場において非常に希少価値が高く、多くの成長企業が探し求めています。なぜなら、企業の成長フェーズにおいて不可欠な役割を担える即戦力だからです。
| 経験 | なぜ市場価値が高いのか |
|---|---|
| IPO準備 | 内部統制の構築、監査法人対応、開示資料作成など、会社の仕組みを根幹から作り上げる専門知識が求められるため。 |
| マネジメント | メンバーの育成や業務管理を通して、チームとして成果を出す力が証明されており、組織の拡大に貢献できるため。 |
実際に、このような付加価値の高い経験が、いかに転職市場で有利に働くかを示す象徴的な事例があります。
彼の「IPO準備企業での課長級経験」というスキルは、まさに引く手あまたの状態でした。転職活動を開始するやいなや、IPOを目指す企業を中心に計7社から面接の依頼が殺到し、最終的には3社から内定を獲得。年収500万円から、同等以上の条件で、最も成長機会の大きいと感じたIPO準備企業への転職を成功させました。この事例は、専門経験を持つ人材が企業から奪い合いになり、自らキャリアを選び取れる現状をよく表しています。
ポイント2:決算を完結できる「3年以上の実務経験」
次に、多くの企業が「即戦力」として採用する上での一つの基準となるのが、「3年以上の実務経験」と「一人で決算を完結できるスキル」です。
そのように不安に思う方もいらっしゃるかもしれませんが、心配ありません。3年という期間は、日々の仕訳入力から月次・四半期・年次決算という一連の業務サイクルを複数回経験し、会社の数字の流れを体系的に理解するために必要な目安とされています。
企業側からすると、このレベルに達している人材は、基本的な業務の進め方を一から教える必要がなく、教育コストを抑えてすぐに現場で活躍してもらえるため、非常に魅力的に映るのです。もしあなたが、上司のサポートを受けながらでも、決算業務全体に関わった経験をお持ちであれば、それは間違いなくあなたの強みになります。
ポイント3:業務を効率化する「ITツールやシステムへの対応力」
最後に、現代の経理にとって欠かせないスキルとなっているのが、ITツールやシステムへの対応力です。
人手不足が深刻化する中で、多くの企業は経理部門の業務効率化を急務と考えています。そのため、単に会計ソフトが使えるだけでなく、新しいシステムやツールを積極的に活用し、業務プロセスそのものを改善できる人材の価値が急上昇しています。
| スキル・経験 | 企業が期待する貢献 |
|---|---|
| クラウド会計ソフトの活用 | 銀行口座との連携や自動仕訳で、入力作業を大幅に削減する。 |
| ERPシステムの導入・運用 | 販売・購買・会計などのデータを一元管理し、経営状況をリアルタイムに可視化する。 |
| RPA/Excelマクロの活用 | 請求書発行や経費精算のチェックなど、定型的な作業を自動化し、人的ミスを減らす。 |
「プログラミングのような専門知識はないし…」と感じる必要はありません。まずは、今お使いの会計ソフトの便利な機能を調べて試してみたり、Excelの関数やショートカットキーを一つ覚えたりすることから始めてみましょう。そのような小さな一歩が、あなたの市場価値を高めるための重要なITスキルに繋がっていきます。
Excelのルーティンを関数で効率化|必ず覚えておくべき関数15選
要注意!「経理なら引く手あまた」とは限らない?転職の3つの落とし穴
ここまで「経理は引く手あまた」という市場の追い風についてお話ししてきました。自分の可能性にワクワクしている方も多いのではないでしょうか。しかし、この言葉を鵜呑みにして転職活動を始めると、「こんなはずじゃなかった…」と思わぬ壁にぶつかってしまうことがあります。
その通りです。市場が活況だからこそ、見落としがちな「落とし穴」が存在します。ここでは、豊富な経験を持つ方でさえ陥りがちな3つのケースをご紹介します。後悔のないキャリアチェンジを実現するために、ぜひ知っておいてください。
落とし穴1:マネジメント経験が逆に足かせになるケース
意外に思われるかもしれませんが、豊富なマネジメント経験が、時として転職の障壁になってしまうことがあります。特に、大企業などで長年管理職として部下のマネジメントに専念されてきた方に、この傾向が見られます。
なぜなら、多くの成長企業や中小企業が求めているのは、チームを率いるだけでなく、自らも手を動かして現場の実務をこなせる「プレイングマネージャー」だからです。面接の場で、現場の伝票処理などの実務に対して少しでも抵抗感を示してしまうと、「柔軟性に欠ける」「新しい環境に馴染めないかもしれない」と判断され、敬遠されてしまうリスクがあります。
ご自身のマネジメント経験をアピールする際は、単に管理能力を伝えるだけでなく、「チームの成果のために、自分自身もプレイヤーとして貢献する」という姿勢を具体的に示すことが、成功の鍵となります。
落とし穴2:現職の年収に固執し、機会を逃すケース
転職を考える上で、年収が重要な要素であることは間違いありません。しかし、現在の年収に固執しすぎることが、かえって魅力的なキャリアの可能性を狭めてしまう「落とし穴」になることがあります。
これは特に、給与水準の高い大手企業や外資系企業から、中小・ベンチャー企業への転職を考える際によく起こる問題です。企業の規模や給与テーブルが異なるため、一時的に年収が下がる可能性もゼロではありません。現在の年収を維持することにこだわりすぎると、応募できる求人が極端に限られてしまい、活動が長期化する原因にもなります。
| 思考パターン | 起こりうること |
|---|---|
| 年収維持・アップに固執する | 応募できる求人が限定され、活動が長期化する。将来の大きなリターンの機会を逃す可能性がある。 |
| 将来性や機会も考慮する | 一時的に年収が下がっても、裁量権の大きいポジションや、IPOによるストックオプションなど、将来的なリターンを得るチャンスが広がる。 |
もちろん、生活を守る上で年収は大切です。しかし、「数年後のキャリアアップ」や「仕事のやりがい」といった中長期的な視点を持つことで、目先の金額だけでは測れない、より価値のある選択肢が見えてくるはずです。
落とし穴3:自身の経験と企業のニーズが合わないケース
あなたがこれまで積み上げてきた貴重な経験も、それを求めている企業に届けなければ正しく評価されません。自身の強みと、企業が本当に求めている人物像がズレている「経験のミスマッチ」は、非常にもったいない落とし穴です。
経理のキャリアは、大きく「ゼネラリスト」と「スペシャリスト」に分かれます。このどちらのタイプが評価されるかは、企業の規模や成長フェーズによって大きく異なります。
| 自分のタイプ | 応募先企業 | 起こりうるミスマッチ |
|---|---|---|
| ゼネラリスト (幅広い業務を経験) |
大企業の専門部署 (例:連結決算チーム) |
「広く浅い」と見なされ、専門性が足りないと判断される。 |
| スペシャリスト (特定の分野に特化) |
中小・ベンチャー企業 (例:経理ひとり部署) |
「専門外はできないのでは?」と思われ、柔軟性に欠けると判断される。 |
自分の経験をどのような言葉で、どの側面を強調してアピールするのか。転職活動を始める前に、一度立ち止まって戦略を練ることが、ミスマッチを防ぐための第一歩と言えるでしょう。
「強みがない」と感じていても大丈夫。引く手あまたの市場で輝くキャリア戦略
ここまで読み進めて、「引く手あまたと言っても、それは特別な経験がある人の話だ」「自分にはアピールできるような強みなんてない…」と感じてしまった方もいらっしゃるかもしれません。
その気持ち、とてもよく分かります。しかし、諦めるのはまだ早いです。日々の定型業務が中心だったとしても、少し視点を変え、意識的に行動することで、あなたの市場価値は劇的に高まります。ここからは、今のあなたがいる場所から始められる、未来を切り拓くための3つのキャリア戦略をご紹介します。
戦略1:専門性を磨き、あなただけの「付加価値」を高める
最初の戦略は、日々の業務の中から「専門性」を見つけ出し、磨き上げることです。なにも、税理士や公認会計士といった難関資格を取得することだけが専門性ではありません。「この業務なら、私が一番詳しい」と自信を持って言える領域を作ることが、あなただけの「付加価値」になります。
例えば、以下のような視点で日々の業務を見直してみてはいかがでしょうか。
| 業務領域 | 専門性を高めるアクション例 |
|---|---|
| 税務 | 自社の消費税計算の仕組みを深く理解し、インボイス制度の変更点を誰よりも詳しく説明できるようにする。 |
| 固定資産管理 | 減価償却の計算方法だけでなく、節税に繋がる会計処理や、資産除去債務について学び、提案できるようにする。 |
| 開示業務 | 有価証券報告書の作成プロセスに関わり、注記情報の意味や作成根拠を一つひとつ自分の言葉で説明できるようにする。 |
どんなに小さなことでも構いません。一つの業務を深く掘り下げることで、それはやがて他の誰も真似できない、あなたの強力な武器になります。「〇〇のことなら、あの人に聞こう」と社内で頼られる存在になることが、市場価値の高い専門家への第一歩です。
戦略2:経営視点を持ち、数字で貢献できる人材を目指す
次の戦略は、ただ数字を処理するだけでなく、その数字が持つ意味を考え、経営に貢献する視点を持つことです。経営者は、経理部門に対して、過去の数字をまとめるだけの「作業者」ではなく、未来の意思決定に役立つ情報を提供してくれる「ビジネスパートナー」であることを期待しています。
難しく考える必要はありません。まずは、あなたが毎日扱っている数字に「なぜ?」と問いかける習慣をつけてみましょう。
* 「なぜ、今月の売上は目標を達成できたのだろう?」
* 「なぜ、先月より広告宣伝費が増えているのだろう?」
* 「このコストを削減できれば、利益はどれくらい改善するのだろう?」
こうした疑問の答えを探るうちに、数字の裏側にあるビジネスの動きが見えてくるようになります。そして、気づいたことを上司や関連部署に「〇〇という理由で、来月はコストが増えそうです」と一言報告するだけでも、それは立派な経営貢献です。この視点を持ち続けることで、あなたは単なる経理担当者から、経営に欠かせない参謀へと進化していくことができるでしょう。
戦略3:キャリアのプロと伴走し、隠れた市場価値を見つける
最後の戦略は、自分一人で悩まず、キャリアのプロフェッショナルに伴走してもらうことです。自分では「当たり前」だと思っている経験が、転職市場では高く評価される「強み」であることは少なくありません。
客観的な適性検査の結果も、その「向上心」や「前向きさ」を裏付けていました。そこで私は、彼女が当初希望していた安定志向の大手企業ではなく、若くても実力次第でリーダーを任される可能性がある成長ベンチャーへの挑戦を提案しました。結果、彼女は見事に内定を獲得し、今では業務改善プロジェクトで活躍するなど、キャリアを大きく加速させています。
このように、経理の転職市場を熟知したエージェントは、あなたの経歴書に書かれている事実だけでなく、その裏にある潜在的な能力や資質を見つけ出し、最適なキャリアプランを一緒に描くことができます。「自分の市場価値が知りたい」「キャリアの方向性に悩んでいる」そんな風に感じたら、一度プロの視点を取り入れてみることを強くお勧めします。
よくある質問
Q:経理で1人前になるには何年必要ですか?
もちろん、大切なのは年数だけでなく「経験の質」です。3年未満であっても、主体的に決算業務に関わったり、業務改善に取り組んだりした経験があれば、それは「一人前」として評価される立派な強みになりますよ。
Q:経理の仕事に向いていない人は?
・地道な作業が苦手な方:経理は正確性が第一。細かい数字と向き合い、コツコツと作業を進める場面が多くあります。
・変化を好まない方:法改正や新しい会計システムの導入など、経理は常に学び続ける姿勢が求められる職種です。
記事でも触れたように、特に成長企業では「プレイングマネージャー」としての柔軟な姿勢が求められます。過去のやり方に固執せず、新しいことを吸収していく意欲が大切になりますね。
Q:優秀な経理の特徴は?
それは、単に数字を正確に処理するだけでなく、「数字を基に、未来の経営に貢献できる」という点です。具体的には、
・経営視点を持つ:「なぜこの数字なのか?」と考え、コスト削減や業務改善を提案できる。
・専門性を磨き続ける:税務や開示など特定の分野を深掘りし、「この領域なら任せて」と言える武器を持つ。
・ITスキルを駆使する:新しい会計ソフトやツールを積極的に活用し、業務全体の効率化を図れる。
こうした「付加価値」を持つことで、あなたは単なる作業者ではなく、経営に欠かせないビジネスパートナーとして、引く手あまたの人材になることができます。
